アンティーク時計店主のつぶやき

オーストラリアにある高級アンティーク時計専門店メルシーウォッチの店主が綴る、何気ない日常の生活や仕事にまつわるお話しです。

質屋さんで盗品売買の現場に遭遇!

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最近は質屋さんとも、情報交換やこちらが協力させていただくような形で、少しお付き合いをさせていただいています。

先日も、ちょうどそのあたりを通ることがあって、お店に立ち寄って話し込んでいたのですが、その時のお話。

 

お店のオーナーが「この指輪すごいだろう?」と、びっくりするような大きな宝石が付いた指輪などを見せてくれていました。

どっから仕入れてくるんだろうと、このおっちゃん只者じゃないなと。

昔からあるお店で、勉強させてもらうことも多く、時々立ち寄らせてもらっています。

 

 

映画に出てくるような、ストリートギャング来店

そんな指輪などを眺めていると、若い二人がお店に入ってきました。

20代の後半から30歳くらい?

見るからに明らかに、宝石やジュエリーを買いに来た感じではない。

 

「もしかして真昼間から強盗?」

そう思って、ちょっと身構えました。

 

本当に、ストリートギャングのお手本というか、映画からそのまま抜け出してきたんじゃないかというような出で立ちで、通りに立っていたら、間違っても声をかけるような人たちじゃあありません。

 

かなりだぶついた白地に黒い模様の入ったパーカー。

そして同じセットでの白いズボン。

そして腕にはタトゥーが。

もう一人も同じ様な格好でした。

 

「こりゃやばい人たちだな」というのが、見るだけで伝わってきます。

 

 

やっぱり怖い人たち??

お店のオーナーがおもむろに、今までテーブルに出していた宝石を、いかにも自然な動作で、さっと仕舞い始めました。

 

やばい人たちか。

「あ、そういうことなんだな」と。

オーナーの行動から見ても伝わります。

 

こちらは事情を知らないものですから、強盗にでも入ってきたのか??

と思ったのですが、どうやらオーナーとは知った仲のようで、気さくに話し始めました。

私は知らないふりで、他の店員さんと話し込むことにしました。

 

 

盗品の山がドン!

話を聞いていると、「今回はこれ買い取ってくれよ」と。

ジャラジャラ、ジャラジャラ、買い物袋のような袋から出るわ出るわ、まさに金銀宝石宝箱ならぬ、ジュエリーや時計の山。

 

しかも一切統一性がなく、ただ単に「かき集めた」というような、言ってみればジュエリーの塊。

持ち込んだ人たちには、見た目で判断して申し訳ないのですが、持っているはずがないものばかり。

 

「こりゃ間違いない、盗品だ。」

 

時々目が合うので、こちらも笑顔で返すのですが、顔だけを見ていると、危害を加えてきそうな感じではないので、ほっと一安心。

そこからは、オーナーとギャング風の人たちの交わす会話に興味津々で、ただただ聞き入っていました。

 

 

なんだこの会話は?

ギャング「おい嘘だろ、これで〇〇ドルかよ」

オーナー「ダイヤモンドって小さいと価値ないんだよ」

「これ金に見えるけどメッキなんだよ」

「急に金の値段が1割ほど下がったから」

 

本当にこれも申し訳ないのですが、話の内容を聞いていても、どういったものが価値があって、そうでないものなのか。

あんまりわかっていないような感じでした。

 

 

オーナー「〇〇〇ドルなら買うけど、それ以上は出せないよ」

ギャング「ここに時計もあるから、もうちょっと乗せてくれよ」

たまたま居合わせた時計技術者「これ天芯が折れてるね。直すのに数百ドルかかるよ」

ギャング「あんたのところで買い取ってくれないの?」

時計技術者「うちも食べていかないといけないからね。お金がかかるのはご免だよ。」

 

 

面白い・・・

面白過ぎる、なんて面白い現場と会話なんだろう。

そしてお店のオーナーも、分け隔てない対応というのか、清濁併せ呑むくらいでなきゃ、こんな業界やっていけないんだろうな・・・

 

コントなの?

オーナー「この前ブルガリのカバンを買ってさ、見る?」

ギャング「いくらだったの?いいカバンじゃん!」

 

買い取りの話はどうなったんだ?!

話をそらしているのか、ただ単にどちらもしゃべりたいだけなのか。

たわいもない会話で、時間だけが過ぎていきます。

本当に身も蓋も無い会話を聞きながら、バカバカしいコントを見ているようで、腹の中では面白過ぎて、笑いをこらえるのに必死でした。

 

その後、なんだかんだ、つまらない話をして、30分ほど経って、結局オーナーの言い値でお金をもらって帰っていきました。

あとからオーナーに話を聞いてみると、やっぱり泥棒さんだということでした。

 

 

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足がつかない売り方

今のご時世、ebayなどで自分で売り捌けばいいのにと思うのですが、どうやらそれだと足が付いてしまうよう。

商品の写真などから、盗まれた人が、自分のものだとわかることもありますしね。

日本のオークションでも、盗まれた物が出品されて、捕まることがよくありますよね。

 

それで、こういった質屋さんに盗品が持ち込まれるようです。

同じ質屋さんでも、チェーン店やしっかりしたお店だと、売る側もリスクがあるので、昔ながらのオーナーがお店に立っているところに持ち込んでいるみたいです。

持ち込まれる側も持ち込まれる側で、勝手知ったる仲、身元確認などもせずに、引き取ってから、溶かしてしまう地金として、最終の業者にまとめて買い取ってもらうという流れになっているようです。

 

ギャングなんかが来ると、お店が襲われるんじゃないかと思うのですが、彼らにしてみれば、ブツをお金に換えることができる貴重な場所なんですね。

 

 

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後日譚

後日、別件で尋ねた時には、お店に地金の買い取り業者の方が来ていて、買い取った貴金属をバチンバチンと大きなニッパーで切って、X線検査をしたりして、買い取っていました。

業者「これ金じゃないよ」

オーナー「うそ、14金って書いてあるじゃない?」

業者「これすごいね、22金くらいあるよ」

オーナー「ホールマークが無いから8金くらいだと聞いて買い取ったけどね」

 

うーん、質屋の買い取りって、こんなに適当だったのか。

それとも、このお店だけなのか。

「オメガの偽物をつかまされたよ」なんてことも、オーナーが話していたので、まぁ良いこともあれば悪いこともある、それでもやっていけるんだなと。

 

 

検査機器なども昔と比べると、とんでもなく進歩して。

でも偽物を作る技術も進歩して。

いやはや、昔ながらのお店の趣き深いことか。

こんなお店自体が、もはやアンティーク。

 

 

なんとも奥が深い。

業界の裏事情というか、これぞまさに知る人ぞ知る。

こんな場面に遭遇して、話まで聞いてしまえるなんて、これぞ役得?

いやいや、良い経験をさせていただきました。

 

(備考)

記事に掲載されている写真は、このお話しとは無関係です。

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